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[転載]国民に対する陛下の御期待    (昭和44年)

国民に対する陛下の御期待

 
最後に私は、陛下が国民に何を御期待になっておいでになるか、
について、私の感得していることを申し述ぺたいと思う。

陛下の御記憶力は極めて強靱で、且つ一点の「私」をもお持ちに
ならないお方であるから、その御判断は、捉われるところもなく、
また、傾くところもなく、極めて正確である、と私は信ずるが、
めったに他を批判するようなお言葉はお口におだしにならないから、
以下申し述べるところは、私が、私なりに感得したものとして、
おききを願いたい。
 
陛下は多年の御経験から、陛下の最も重視されるものは、国民の
良識である、と私は思う。この良識さえ、しっかりしていたならば、
このたびの悲惨な戦争も起らなかったのではなかろうか、現に開戦前に、
戦うことの不利を主張した多くの憂国の非戦論があったではないか。
 
 
然るに、残念ながら、これらの非戦論は国民与論のために圧倒され、
葬られてしまった。というのが、陛下の御回顧である。

この非戦論を葬り去った国民与論なるものは、果たして国民の良識で
あったであろうか。ここに陛下の御心配あるのである。

陛下の御胸中を拝察すれば、日本国民のただ一つの欠点は、一部煽動者
の言説に、すぐ附和雷同する性僻であって、熟慮判断して所信を堅持する
力が弱い、この弱点を補強するには、国民の教養を高め、宗教心(正しい)
深めるより他に途はない。(陛下か宗教心と仰せになるのは、何も一宗
一派に限って仰せになるのではない。)

教養が高くなれば、物ごとを熟慮判断する力が強くなって、流言蜚語に
迷わされる虞れもなく、また、宗教心が深くなれぱ、自分の信ずるとこ
ろを守り抜く力が強くなって、脅迫や誘惑に打ち克つようになるであろう。

故に、将来は、どうしても国民の教養と宗教心とを向上させなければ
ならない。日本がこれに成功して、日本人が世界のうちで優れたもの
となり得た暁には、

かつては戦争諸原因の根底をなした、かの人種問題にしても、嘗って
の如く、嫌われたり疑われたりする代りに、各国民の尊敬と信頼とを
かち得て、入種問題も、おのずから、その重大性を失うであろうし、
また、自由主義、民主主義も、正しい意味に於て、国民生活のうちに
確立され、各人は自由の基礎に正義があり、権利の傍らに義務を存
することを、よく知るようになる。

かくして、個人の人格と自由とは、国民相互の間に尊敬され、各自
がその信念によって行動するところの自由闊達な国民が出現するに
至るであろう。
 
かかる国民こそ世界平和の中核であり、旦つまた、これが、古来、
わが皇祖皇宗の期待し給うたところの大和民族の真の姿ではなか
ろうか。というのが、陛下の真のお気持ちではないか、と私は
考えている。



     元侍従次長  木下道雄 著  「皇室と国民」より



転載元: サイタニのブログ


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