つづき 伯父の万兵衛
金次郎はしばらくの間はがまんするのですけれど、どうにも読みたくてたまらなくなって、皆が寝静まってから読むのでした。
そんなある日のことです。金次郎は自分の生家の水田のあたりに行ってみました。まだ荒れ地のままでしたが、ふと足もとに目をやると、あちこちに余った稲の苗が捨ててあります。苗は日に照らされてもう枯れそうでした。
「このままでは枯れてしまう。もったいない。かわいそうだ」
と金次郎は思いました。
金次郎はすこし先の土手下の水たまりに、その苗を一本一本心をこめて植えました。それからは仕事の合間をみては草とりをしてやりました。
金次郎はその苗が根づいて、元気に育ちはじめたので、嬉しくてたまりません。苗をみにいくのが何よりの楽しみになりました。
そんな金次郎を、万兵衛はそ知らぬ顔をしながら見まもっていました。そして時々金次郎の稲に肥料をやったりしました。
やがて秋になり、稲は黄金色に実って重そうに穂を垂れました。荒地に育てたのに、一表(60キログラム)余りもの米がとれたのです。
『小さなことを積みかさねていけば大きなことを為すことができる』
ということを金次郎は知ったのでした。
「金次郎よかったなあ。なかなかいい出来じゃないか」
万兵衡は上きげんでほめてくれました。
「まあ、わしも時々こやしをやっておいたがな」
「えっ、おじさんがこやしをやってくれたんですか」
金次郎は万兵衛が知っていて、しかも応援してくれていたと知って、胸がいっぱいになりました。
「金次郎、捨て苗でも植えてやり、手をかけてやればこのように実る。おまえはなかなか心がけがいいぞ。よくやったな」
そういって万兵衛はにっこりしました。
つづく
財団法人新教育者連盟 「二宮金次郎」より