真珠湾に散った英霊たち

　昭和１６年（１９４１年）１２月８日、日本海軍機動部隊は真珠湾を攻撃しました。最初の一撃は奇襲となりましたが、敵の反撃も早く、制空隊の新藤三郎大尉は「ふつう、炸裂弾を弾薬庫から出して信管を取り付け、発射するまでは、ある程度の時間を要する。それが、第一次の雷撃隊からも損害が出るほどの速さで反撃できたんですから、砲側において臨戦準備をしていたとしか考えられない」と述べています。

　真珠湾攻撃は大戦果をあげましたが、米軍の反撃も激しく、日本側航空隊の未帰還機は２９機、特別攻撃隊（特殊潜航艇）５隻未帰還、戦死は５５名ありました。

　空母・蒼龍制空隊分隊長の飯田房太大尉はカネオヘ基地上空で被弾し、燃料漏れを起こしました母艦まで帰れないと判断した飯田は帰投途中で反転しました。分隊長の覚悟を知った隊員は風防を開け、敬礼で持って見送りました。飯田大尉は愛機のゼロ戦とともに同基地に突入して自爆しました。飯田隊長機に続いて渥見峻（あつみたかし）一飛曹も燃料漏れのために後を追う様に自爆しました。

　アメリカ海軍は、敵ながら、壮烈な行為を称賛して、遺骸の柩（ひつぎ）をアメリカ軍艦旗で包み、衛兵隊弔銃の礼をもってヌアヌ海軍墓地に埋葬したといいます。ヌアヌ海軍墓地には飯田大尉のほか、鈴木三守大尉の三士、特殊潜航艇の岩佐直治大尉も葬られています。

　ワヒアワには降下爆撃機二機、４戦士が葬られています。土饅頭の上に十字架をたて英語で「日本空軍四士戦死　１９４１年１２月７日」と記されています。撃墜されたとき、搭乗員４名は認識できぬほどの無残な死体だったといいます。１機は午前八時頃（攻撃開始とほぼ同じ時刻）一家屋に激突し、他の一機はパイナップル畑に２５０キロ爆弾を抱いたまま墜落しました。葬儀は軍の当局者が取り扱い、戦死者にふさわしい礼儀をもって執り行われたといいます。

　真珠湾攻撃当時、被弾し、母艦に帰還が望めない場合、ハワイ八島で二番目に小さいニイハフ島に不時着し、そこで潜水艦で収容する手はずとなっていました。ニイハフ島の西海岸は平坦で、小型飛行機の不時着が行え、海面は沿岸近くまで深くて、潜水艦の潜伏に適していたからです。また島は牛の放牧場であって管理人の日本人３名ほか、原住民労務者２０名がおり、白人は一人もいないという情報がありました。

　空母・飛龍の制空隊、西開地重徳（にしかいちしげのり）一飛曹はエンジン不調（被弾損傷のためとも）のためニイハウ島に不時着しました。島はロビンソン家が所有しており、管理人は日系人の原田義雄という人でした。原住民は西開地一飛曹を助け出し、キャンプに連れ込んで介抱しました。原住民の知らせを聞き、原田氏は西開地一飛曹をこんどはロビンソン家の別荘に連れていき、精一杯世話をしました。

　７日の晩（現地時間）、西開地一飛曹は海岸で潜水艦が来るのを待っていましたが、とうとう現れませんでした。既に潜水艦は命令変更によって午後３時には島の海域から去っていたのです。

　９日になると真珠湾攻撃の噂がニイハウ島に伝わってきました。原住民に動揺が走ります。西開地一飛曹は飛行機に用具嚢を積んであったのを原住民のキャンプに持ち去られていることを原田氏に話ます。暗号表が入れてあるので、取り戻して焼き捨てて自決したいという。原田氏は原住民と交渉しますが、既に硬化しており、応じません。

　かくて西開地一飛曹と原田氏は原住民のキャンプを放火しました。「火事だ」「火事だ」と叫び死者がでないよう配慮しました。原住民は二人が放火したことを知り、怒り狂い二人に迫りました。二人は逃げ、山中でピストル自殺しました。

　戦後、真珠湾の攻撃隊長だった淵田美津雄元大佐は原田氏の未亡人、アイレン夫人（日系二世）に会いました。夫人は３年間もホノルル刑務所に入れられ、子供達は孤児院に引き取られていたといいます。とんだ災難を原田一家に負わしてしまったことを詫びると夫人は「そんなに詫びて貰っては、私は困ります。わたしたちは米国生まれの米国市民ですから、米軍当局が私達を反逆罪ときめつけるのは、少しも間違いではありません。しかし、私達の皮膚の下には、日本人としての血も流れています。従って私は夫のしたことも間違いだとは思っていません」と述べました。

　真珠湾攻撃から７０年。英霊に合掌。

参考文献

　講談社文庫「真珠湾攻撃総隊長の回想　淵田美津雄自叙伝」中田整一（編／解説）

　講談社「祖父たちの零戦」神立尚紀（著）

　ＫＫベストセラーズ「歴史人」２０１１．６『真珠湾奇襲攻撃』松田十刻

参考サイト

　WikiPedia「真珠湾攻撃」

添付画像

　炎上するアリゾナ（PD）

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