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「防波堤」を期待された慰安所 米兵に性病蔓延と抗議
2013.3.23 12:00
▲上陸した米軍とにらみあう館山海軍航空隊の幹部ら（海上自衛隊館山航空基地提供）
戦争の爪痕は厳しかった。昭和２０年１１月にフィリピンから千葉県館山市へ帰国した元海軍下士官、庄司兼次郎さん（８５）＝同市在住＝は、１年くらい体調が元に戻らなかった。
マラリアの発作が出るとガチガチと歯が鳴り、震えが止まらない。４０度近く発熱する。「親は最初は驚いて大騒ぎした」という。歯ぐきから出血が止まらないこともあった。ビタミンの欠乏で船員がかかるといわれた壊血病だった。
「急性腎臓炎でのどがはれて寝ていられない。病院へ出たり入ったりしていました」
フィリピンでは栄養失調で亡くなる仲間が多かったが、生き残った庄司さんも無事ではなかった。
■司令所に暗号設備も
これより少し前。館山海軍航空基地に上陸した米陸軍第１１２騎兵連隊は、別表のように県内各地に進駐を続けた。連隊の活動記録にはこうある。
「館山海軍航空基地からは暗号設備、動力設備をもつ完全に地下化された海軍司令所が発見された」（９月５日）
赤山地下壕を指すとみられ、米側は戦中、その存在を完全には把握していなかったことがうかがえる。
２０年７月に閉校していた館山海軍砲術学校に関しては「ここには軍事に関する書類はないことが判明した。８月最終週に日本側の手で廃棄されてしまった」（９月１４日）としている。
カニンガム准将は９月１０日には千葉市に向かい、斎藤亮県知事らと会見した。当時の庁舎に星条旗が翻ったという。
連隊は各地の軍事施設に集積された武器などを廃棄した。こうした中で、９月２０日に館山基地で爆発事故が起き、米軍兵士１人が死亡、７２人がけがを負った。
上陸部隊は１０月には県内１０カ所で計約５千人となった。「千葉県の歴史 通史編」によると、館山市が３５００人で最も多く、千葉市３５０人▽柏市３００人▽木更津市２３０人▽旭市１５９人▽茂原市１５０人－などとなっていた。
■内務省が設置求める
米軍の兵士がこれだけ駐留したことで何が問題となったか。１２月４日付の館山終戦連絡地方事務局の報告書は「館山の慰安所問題」を取り上げている。
館山市内には３０カ所の慰安所があり、約１３０人の芸者と酌婦がいた。終戦直後の慰安施設は県内で館山が最も多かったことが報告されている。
カニンガム准将は１２月１日、館山市長、警察署長、保健所長を呼び出し、性病に感染する米兵の数が甚大で、予防措置が不徹底であると抗議した。「証言 千葉県戦後史」（湯浅博著）によると、こういらだちをぶつけた。
「日本当局側の誠意はまったく認められない」
こんな姿勢に対して当時の館山医師会の川名正義支部長はこう述べている。
「実際に性病を運んできたのは米兵たちだ。占領軍とは勝手なもの」
同書によると、１０月２７日までに県内で強姦（ごうかん）２件、同未遂７件を含む計８７件の米兵による事件が発生していた。
日本政府はこうした事態を想定して８月１８日に内務省通達で慰安所を設置するよう求めていた。被害を拡大させないための「性の防波堤」という考えだ。旅館などで売春する場を整え、準備をすることは当時は当たり前だった。
慰安料はたばこが５０銭のときに２２円から６０円だったという。売春防止法が制定されたのは昭和３１年のことである。
生活苦で身売りする女性が珍しくなかった。悲惨だがそれが現実だった。「慰安」という言葉には世相が反映されている。
（羽成哲郎）
◆占領軍の県内への進駐状況
昭和２０年
８月３０日 富津海岸、館山海岸
３１日 館山海軍航空隊
９月 １日 木更津海軍航空隊
３日 洲ノ埼海軍航空隊
１６日 勝山、富津
２１日 銚子
２２日 松戸、金谷、茂原
２６日 館山海軍砲術学校
２７日 藤ケ谷飛行場（現柏市）
１０月８日 香取海軍航空隊
１１日 下志津飛行場
※「千葉県の歴史通史編 近現代３」より抜粋。