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Channel: 電脳工廠・兵器(武器,弾薬)庫
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[転載]桜町仕法 「二宮金次郎」

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桜町仕法 
 
二十一日間の断食を終えた金次郎は、さすがにすっかりやせ、ひげはのびほうだいで、顔も青白くなっていました。
しかし金次郎は、迎えの役人たちに、
「さあ、帰りましょう」
と元気に言いました。
 
そして、お粥(かゆ)を一ぱい食べただけで和尚様に深々と頭をさげ、礼を述べてすたすたと歩きだしました。なんと二十里(約八十キロメートル)あまりの道を歩き通して桜町へ帰ったのです。
名主や村人たちは、金次郎を大よろこびで迎えました。
二十一日間の断食を終えたばかりなのに、金次郎はすぐ次の日の早朝から村の見回りを再開しました。金次郎の体力は驚くべきものでしたが、更に断食によって培われた気力と精神力にはなみなみならぬものがありました。
 
金次郎の見回りは毎朝早くからきまっておこなわれましたので、通り道の家々では、
「もう二宮様がお通りになる時刻だよ。早く起きて戸を開けなされ」
と言って、寝坊のものたちを起こしたりしました。
 
 
ある朝のことです。
一人の若者が二里も遠くの町で夜遊びをして、明け方帰ってきました。そして田んぼのあたりで見回りの金次郎に出会ってしまったのです。
若者はあわてて田んぼをみにきた風をよそおいました。
金次郎も何も気づかぬふりをして、
「朝早くから精がでるなあ。若いのになかなか働きものだね」
と、その若者をほめました。そして後で陣屋によび、ほうびとして鍬(くわ)を与えました。若者は恥ずかしくなりましたが、ほめられたとおりの人になろうと夜遊びをやめ、働き者になりました。
 
またこんなこともありました。
物井村(ものいむら)の荒れ地を拓(ひら)くために、人夫たちが汗水流して鍬をふるっていたときのことです。
なかにひときわ力強く土を掘っている男がいました。したたる汗もぬぐわず、休むこともせず、他の者の二倍以上のはやさで仕事をしています。
見回りの役人たちは感心してしまいました。
「この男は偉い。みなの手本だ。この男を表彰しようではありませんか」
と金次郎に言いました。
しかし金次郎は返事をしません。じっとその男の働きぶりをみています。
突然、雷のような大声がとびました。
「ふとどきものめ。お前は役人や人夫頭のみている時だけ必死に働いて、かげでは怠けているにちがいない」
「ええつ」
「わたしが夕方までずっと見ていてやる。今の調子で仕事を続けてみろ」
 
つづく
 
 
 

転載元: サイタニのブログ


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