鈴木善幸内閣の法相として、国会の答弁で、自主憲法制定を問題提起した(左)(写真:産経新聞)
【話の肖像画】保守政治家の最長老・奥野誠亮氏(100)
保守合同が昭和30年にあって、憲法改正の実現が期待されましたが、自民党は衆参各院の「3分の2以上」の議席をなかなか得られなかった。そこで自民党は、憲法改正をあまり言わないようになりました。
〈鈴木善幸内閣の法相だった昭和55年、国会答弁で自主憲法制定の信念を披露した。「国民の間から、自分たちで自由な議論をして、憲法を作ろうじゃないかという気持ちが出てくることが好ましい」と問題提起したのである。野党が閣僚辞任を要求したが応じなかった〉
アメリカは、今は大切な同盟国ですが、占領初期の対日方針(20年9月)には「日本が再びアメリカの脅威とならないようにすること」とありました。この日本弱体化政策の一環が、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とする今の憲法の制定でした。
憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して「われらの安全と生存を保持しようと決意した」なんて書いてある。いい日本にしようという憲法ではないんですよ。
占領中は、日本の国会も政府も自主的活動はできませんでした。国会へ法律を出すのも、審議で修正するのも、その議決が賛成でも反対でも、事前に連合国軍総司令部(GHQ)の承認を受けなければならなかった。憲法も同じです。こういうことを若い人に知ってほしい。
中国が、尖閣諸島を「おれのものだ」とねらっています。日本を守る軍事力が必要です。国を守れない憲法では意味がありません。
参院選では、改正要件を緩和する96条改正が論じられました。私は閣僚だったころ、3分の2をとれるとは思えなかった。夢でしたよ。
そこで、3分の2なんていわないで、まずは新しい憲法をつくって、そこに「外国の軍隊に占領されていたときにつくられた憲法は爾後(じご)効力を失う」という宣言規定をおけばいい-と考えていました。けれども、これは公にはいいませんでした。「憲法の遵守(じゅんしゅ)義務違反だ」と野党が騒ぎますからね。石原慎太郎さん(日本維新の会共同代表)の意見は私と同じですね。
これからは、憲法を改めるために政党再編成がおきてほしいですね。これだけ中国から脅されて、領土まで危うくなってきましたから、国民もだんだん分かってきたと思います。
集団的自衛権の行使を認めるよう憲法解釈も変えたらいいですが、内閣法制局長官には政治家を充てるといい。戦前はそうでした。(粛軍演説で知られる)斎藤隆夫さんや(戦後、衆院議長になる)船田中(ふなだなか)さんもしていましたよ。
憲法は条文以外にも問題があります。たとえば、今の憲法ができたとき「戦争はなくなった」といって刑法からスパイ罪を削ってしまった。占領軍が手を回したんです。スパイを取り締まらないですむ甘い世界がどこにありますか。(聞き手 榊原智)