中国の「反日プロパガンダ」を侮るな 産経新聞 【一筆多論】
2月28日付朝刊国際面にある静岡大学の楊海英教授の寄稿を読んだ。昨年の中国の反日デモは内モンゴル自治区奥地の小さな町でも起こったが、主導していたのは漢民族でモンゴル人は冷ややかに見ていたという話だ。また北京市内の古本屋で共産党の厳しい検閲を経た地図を見つけたが、そこには釣魚島ではなく「尖閣群島」と記されており、店の主人は日本人に地図を高値で売りつけようとしていたという話だった。
今中国では地図の書き換えに精を出しているという。だが、中国固有の声高な官製ナショナリズムと、したたかな庶民の姿との乖離(かいり)が実に興味深かった。
楊教授は同自治区の出身だ。氏の語る内モンゴルの悲劇に関する話は、中国と向き合っている私たち日本への警鐘のように聞こえる。
中国のプロパガンダ(宣伝)を決して侮ってはいけない気がするのだ。その代表例が南京大虐殺だ。南京大虐殺とは、支那事変初期の昭和12年、日本軍が中華民国の首都、南京市を占領した南京攻略戦時に、中国軍の便衣兵らを処断したとされる事件だ。戦後、これが、ナチスドイツがユダヤ人を虐殺したホロコーストに匹敵する大虐殺のように唱えられた。
しかし、これはもともと戦時プロパガンダが針小棒大にされたものだ。その後のさまざまな研究でも少なくとも30万人に及ぶ市民の虐殺といった説は信憑(しんぴょう)性に乏しい。
ところがこれが教科書に載り、試験に出題され、やがて参考書で重要事項に掲げられるようになると、生徒は史実の真偽まで疑うことを許されなくなる。時間とともにそれは事実と化し、私たちの頭を縛ってしまう。
「歴史を直視することが大切」などと中国側は再三言う。これを今なお額面通りに信じ、贖罪(しょくざい)意識に縛られている日本人が何と多いことか。彼らはそうした心理を利用するという用心深さこそ持つべきなのだ。
尖閣もそうである。領土教育を進めようとすると、周辺国は猛反発してくる。しかし、日本青年会議所(日本JC)が全国の高校生に竹島、尖閣、北方領土の地図を見せて国境線を正しく引けるかを尋ねる調査を行ったところ、全問正解者は2%にも満たなかった。危機的な数字である。反論には、まず正しく知ることが不可欠だ。私たちは国の名誉や領土に対して無頓着過ぎたのだ。ところが、領土教育を充実させようとすると、周辺国の反発に、霞が関も永田町も腰が引けてしまうのだ。
中国海軍艦船が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射したさいも、中国側は「中国の関係部門がすでに事実を明らかにしており、日本側の見解はまったく根拠がない捏造(ねつぞう)だ」と反応し「日本が危機をあおり、緊張をつくりだし、中国のイメージを貶(おとし)めようとしている」とまで述べている。これでは全くあべこべである。私たちは事実の歪曲(わいきょく)や捏造、ひいては自国の名誉が貶められる言動にもっと敏感になるべきだ、と思う。(論説委員 安藤慶太)